2021年6月17日〜7月1日までの毎週3回、私が書いたコラム「安全へのメッセージ」が静岡新聞に掲載されました。多くの方に私からのメッセージが伝わればいいなぁと思います。
静岡新聞より引用(2021.6.17)
安全へのメッセージ
<上> 不運で片付けない
私は浜名湖で行われた中学校の野外活動で娘を亡くした父親です。毎年6月18日が近づくと複雑な思いになってしまいます。
「行ってきます」「行ってらっしゃい」玄関をあけて差し込む光の中に、振り返った娘の笑顔がありました。2010年6月17日、カレンダーに印した2泊3日の「自然体験学習」の朝の風景です。花菜と交わした最後の言葉でした。次に会えたのは、翌18日、病院で横たわり目を閉じて動かなくなった花菜でした。しばらく、何が起きたのか理解できないまま、私たち夫婦はふわふわとした日々を過ごしていたように思います。
あの日から11年、二度と会えなくなった命はかけがえのないものでした。それを毎日思い知らされる日々でした。事故の詳細を知ると、「なぜそうしたのか、なぜできなかったのか、どうすべきだったのか」など、多くの疑問の中で苦しみました。私は、「もう花菜は戻ってこないので、せめて娘の死を生かしてほしい」と願うようになりました。
事故以前の私は、子どもが親より先に亡くなるということを意識していませんでした。しかし実際には子どもの死亡事故は起き、大人が正しい知識を持っていれば防げたのではないかと思われる類似の事故が繰り返されていると感じました。これは「不運」では片付けられない問題です。
私は亡くした命がどんなに大切なものだったかを痛感しています。このような辛い思いを他の人に経験してほしくありません。悲しみを伝えるだけではなく、実践できる再発防止、未然防止につなげ、花菜の命を生かすため、遺族の私だからこそ伝わる言葉があると感じています。
(引用おわり)
静岡新聞より引用(2121.6.24)
安全へのメッセージ
<中> 「五つのなぜ」検証
「もう戻ってこないのなら、せめて花菜のいのちを生かしてほしい」。浜名湖カッターボート転覆事故で娘を亡くした親の気持ちは、どれだけ時間が経っても変わりようがありません。
あの日あの時、周りの大人たちはなぜ危険を回避することが出来なかったのでしょうか。そこを検証し、できなかった背景を考え、教訓として学び、生かすことが大切だと思いました。しかし、時間が流れ人が変わり、新たな事故が起きる中で、浜名湖の事故が風化してしまうのではないかと、不安になっていました。
そんな時、ある大学の教育学部の先生から、「生徒たちに安全を学ばせたい。浜名湖の事故について話をしてほしい」というお話をいただきました。それから3年半、私は授業の中で、なぜ生徒の命を守れなかったのか「五つのなぜ」について、将来教員を目指す学生たちと考えてきました。あの教室で、浜名湖の事故を知った学生たちが今、教員として活躍しています。
やがて豊橋市教育委員会から依頼を受け、小中学校の教職員向けに「校外学習における安全管理」をテーマとして毎年話す機会をいただきました。4回目の今年も、日々子どもたちと接している先生方と「五つのなぜ」を示しながら、生徒の安全確保についてともに考え、意見交換をします。また静岡県教育委員会の依頼で、野外活動の危機管理研修としてeランニングの教材作りにも参加しました。野外教育施設などでも啓発活動を行なっています。
こういった当時の関係組織とともに行う遺族としての取り組みが、子どもの命を守ることにつながることを願っています。時間はたっても組織が変わっても、事例を知って学んで教訓を生かす努力を積み重ねることが、事故の未然防止に役立つと信じています。
(引用おわり)
静岡新聞より引用(2021.7.1)
安全へのメッセージ
<下> 医師らと団体設立
学校事故で娘を亡くすという経験した私は、今まで主に教育現場を中心に、野外活動の安全確保について訴えてきました。その中で、保育施設や学校に通う子どもたちには、さまざまな「死亡や後遺症を負うようなリスク」があることを知りました。熱中症や部活動中の事故、給食時の誤食事故から登下校中の交通事故など多くの事例を学び、保育士や教職員の負担を考えると、社会問題として捉えるようになりました。
さらに、私の住む地域の中でも「大人が学んでいれば救われたかもしれない子どもの命がある」と、強く感じる事例にも触れました。当事者となった親の悲しみを想像すると、なにか申し訳ない気持ちにもなりました。
そんな中で出会ったのが、医師のOさんでした。彼女は救急医療の現場を通して「大人の都合で子どもたちが危険なままになっている」現状を肌で感じていました。「子どもにとって安全な社会をつくりたい」という共通の思いから、昨年「豊橋子どもの命と安全を守る会」という任意団体をOさんと立ち上げました。現在、ライフジャケット体験会やシートベルト啓発など、今自分たちにできることを行政の協力を得ながら、子どもの命を守る活動を行なっています。
私は、突然わが子を亡くした当事者となり、やり場のない感情から「せめて、花菜の命を生かしてほしい」と社会に訴えてきました。専門家でもない私の「意見」に戸惑いを見せる方もいますが、多くの方が共感し、アドバイスと活動の場を与えてくれました。共通するのは「二度と繰り返してはいけない」という強い意思でした。
今この11年を振り返ると、「当事者になる前に、当事者意識を持つ」ことの難しさは感じますが、自分ごととして「子どもたちを守るためには何ができるか」を考えられる社会であってほしいと思います。(西野友章・豊橋子どもの命と安全を守る会代表)
<メモ>豊橋子どもの命を安全を守る会は、昨年8月設立の任意団体で、NPO法人化を目指している。今年7月11日には、三ケ日青年の家でライフジャケットの正しい着用方法を学ぶ親子向けのワークショップを開く。
(引用おわり)